REITのNOI利回りと分配金の関係の謎。実不動産との違いについて

J-REITは今年は堅調ですね。2月のVIXショック前の値を超えてきています。

昨年投資した分は含み益を10%以上となり、購入時金額から平均6%の分配金を落としてくれます。

 

昨年J-REITに投資をした際に

「REITの分配金利回りの仕組みって、わかりづらいな。」

と感じましたので記事にしてみました。

「NOI利回り」と「分配金利回り」の関係について

REITは上場しているので、投資口価格が実際の不動産価値より割高になったり割安になったりします。

しかし、NAV倍率が1.0前後、すなわち「投資口価格が不動産価値と同等価値」の銘柄でも「物件の利回りと、分配金利回りの関係」がわかりづらいので解説します。

 

NOI利回りとは?

NOI利回りはJ-REITサイトの定義だと下記の様になっています。

NOI( Net Opearation Income ) 

「投資用不動産の収益力を示す指標。会計上の費用である減価償却費などを除外(加算)して当該物件の収益を算出する。J-REITの場合は、NOI=不動産賃貸利益+減価償却費で算出されている場合が大半。」

NOI利回り

不動産の収益率を示す指標。数値が高いほど収益率が高い不動産となる。J-REITの場合は、NOI利回り=年換算NOI÷期末簿価、または年換算NOI÷不動産取得額で算出される場合が多い。

 

例えば

NOI利回り5%の1億円の物件を購入すれば、不動産賃貸賃貸収入=NOIは500万です。

単純ですね。

話をシンプルにするため減価償却費は無視します。

 

実不動産の場合、不動産取得価格から計算され会話され続けることが多いです。

REITの場合は上場して証券が売買されるので、その最新価値を適切に表現するために期末簿価のことが多いです。

 

補足:REITの「NOI」の定義は曖昧

最初から少し細かくなりますが、上記で「NOI=不動産賃貸利益+減価償却費で算出されている場合が大半とあります。

実不動産経験のある方は、ここで「それ違いますよ!」と突っ込むかもしれません。通例NOIは経費率を除いたインカムを示すからです。

しかし、J-REITの場合は、物件単位の営業収益を「NOI」と読んでいるケースも多いです。

決算報告書を読んでいると、減価償却費を引いた金額を「償却NOI」と表現したり、経費率まで除いた金額を「賃貸NOI」と表現したりしています。

この記事はJ-REITサイトの定義を参照しています。

 

 

NOI利回りが高いREITとは?

REITに手を出す不動産素人の個人投資家は”NOI利回りが高い不動産は良いに決まっている。”と考えがちですが、実はそうでもありません。

現時点の「NOI利回りのトップ10」です。

証券コード 投資法人名 NOI利回り 分配金利回り  NAV倍率
3470 マリモ地方創生リート投資法人(無) 7.18% 5.89% 1.01
8985 ジャパン・ホテル・リート投資法人(A+) 7.06% 4.51% 1.11
3472 大江戸温泉リート投資法人(無) 7.02% 5.49% 0.94
3287 星野リゾート・リート投資法人(A-) 6.83% 4.43% 1.07
3292 イオンリート投資法人(AA-) 6.64% 4.67% 0.98
3463 いちごホテルリート投資法人(無) 6.31% 6.06% 1.00
8963 インヴィンシブル投資法人(A) 6.29% 6.37% 0.98
3308 日本ヘルスケア投資法人(無) 6.12% 4.79% 0.86
3451 トーセイ・リート投資法人(無) 6.07% 5.75% 0.92
3249 産業ファンド投資法人(AA) 5.84% 4.36% 1.23

カッコはJCRの格付けです。

 

高いNOIのREITは運用資産に付加価値付きの物件が多い

上位ランキングを見るとホテルや、商業施設・ヘルスケア等が多いです。

NOIが高く出る1つのケースは、収入が不動産賃貸だけでないケースが含まれます。

ホテル系のREITの中でもいくつかの業態があり、「不動産収入だけのケース」もありますし、「ホテルの運営の一部」を手掛けるREITや、「ホテル経営」そのものを運営・委託を伴って手掛ける業態になっているものもあります。この結果、不動産価格に対してはNOI利回りは高くなります。

その場合、ホテルの経営が上手く行かなくなればNOI利回りも下がることになります。

 

温泉であれ、老人ホームであれ、純粋な不動産賃貸料以外の付加価値に収入が依存している場合には、「良い不動産物件を取得し、高く貸せている!」訳ではないので加味する必要があります。

2018年度上半期はホテル系のREITが見直され上昇率も高かったです。不動産価格も上昇していますし、海外旅行者の増加も追い風です。

一方で、景気が落ちれば不動産価格の下落以上にNOI利回りも落ちていくことがあります。より景気に敏感なREITと言えます。

 

下記は現時点での加重平均していない全銘柄の平均のNOI利回りになります。カテゴリはJ-REITのサイトのものです。

「事業所主体」は都市型の大型銘柄や優良銘柄、多く利回りが低く見えてしまいますが、

付加価値が高い不動産施設はNOIも高いことが見えます。傾向があることが読み取れます。

ホテル主体 6.25%
ヘルスケア主体 5.90%
商業施設主体 5.64%
住居主体 5.48%
複合型 5.28%
物流主体 5.27%
総合型 5.14%
事業所主体 4.55%

 

NOI利回りと優良REITとは関係はない

上記のNOI利回りトップ10は、無格付けが5銘柄、A格付けが3銘柄、AA格付け銘柄が2銘柄です。

「高いNOI利回り=良いREIT」であれば、この様には見えませんよね。

 

無格付けの「マリモ地方創生リート」は地方主体のため、購入不動産価格に対してNOIが高く見えています。

ホテル系も地方比率も高いですし、イオンもそうです。上記高いNOIのトップ10には、首都圏にポートフォリオを多く持つREIT含まれていません。

流動性リスクや、不動産下落リスクを考えれば「NOI高利回り=リスクの高い商品」と言うことができます。

 

最もリスクの低い東京中心ではNOIが5%を超える物件固めるのは現在の市況では困難で、物件を都市に多く持つ大型優良REITのNOIが低めとなる傾向があります。

REITはレバレッジが効いているのでハイリスクだが高分配

上にNOI利回りと分配金利回りを並べて表示しましたが、下記は、

「 NOI利回り < 分配金利回り」

というREITです。実不動産だとないですよね。この仕組みがわかりますかね?

「上場しているので価格が割高なんでしょ?」と想像できると思いますが、NAV倍率(実際の不動産価格に対して現在値の価格の割合)が1以上で実不動産価値より割高で取引されていても、分配金利回りがNOI利回りが高いケースも多いです。

 

証券コード 投資法人名 NOI利回り 分配金利回り NAV倍率
3476 投資法人みらい 4.69% 5.81% 1.06
3473 さくら総合リート投資法人 5.38% 5.86% 1.13
3298 インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人 5.06% 5.40% 1.08
8961 森トラスト総合リート投資法人 4.24% 4.55% 1.13
3227 MCUBS MidCity投資法人 4.13% 4.35% 0.97
3234 森ヒルズリート投資法人 3.72% 3.90% 1.03
3468 スターアジア不動産投資法人 4.93% 5.09% 0.98
3478 森トラスト・ホテルリート投資法人 4.03% 4.19% 1.13
3309 積水ハウス・リート投資法人 4.14% 4.23% 0.99
8963 インヴィンシブル投資法人 6.29% 6.37% 0.98
8956 プレミア投資法人 4.71% 4.76% 1.00
3466 ラサールロジポート投資法人 4.63% 4.66% 1.03
3296 日本リート投資法人 5.01% 5.02% 1.04

 

J-REITの場合は

「投資家から集めた資金」+「銀行等からの借入金」

で不動産を購入します。

投資家から公募で集めた出資金以上の不動産を購入することが通例で、出資金の最大で150%、全体資本に対して有利子負債比率(LTV)で60%までのレバレッジを効かせることができます。

利子分を差し引いた後、出資者への分配金は、NOI利回り以上の分配金利回りが出ることになります。

 

1億円でNOI利回り5%の物件を、5000万出資し、5000万円借金して購入。

不動産賃貸収入は500万円/年です。

5000万は金利0.5%で借りたので、25万円金利分を払って、収益は475万円/年です。

これだとNOI利回り5%ですが、出資金額に対して分配金は9.5%になります!

 

実不動産と違うREITの魅力はここかな。と思います。(´・ω・`)

また、この場合の総資本に対する有利子負債率をLTVと呼び、この場合は、LTVは50%になります。

 

LTVが高い銘柄はリスクが高い!

LTVが高い銘柄はレバレッジを効かせる分、NOI利回りに対して、分配金利回りは良くなりますが、

  • 金利上昇時に借入金の返済が増える。
  • LTVが高いと新たな借金がし辛いため、増資を伴う以外に成長余地が持てない。

等のデメリットがあります。

 

借金して不動産を買うREITのリスク

極端な例ですが、不動産が5000万の出資と、5000万の借金で購入した物件が資産価値が仮に3割下落したら7000万です。

もう銀行はからは借入できず、投資口価格は下落し、身動きできなくなります。

不動産価格が下落し続けたら、担保価値として機能しなくなり、借金している以上は、「売却して解散、償還!」もあり得る訳です。

上記例で強制償還・解散するならば、不動産を7000万で売却し5000万の借金を返せば、残りは2000万円。投資口価格5000万の4割しか戻りません。

実際したケースでは、他投資法人と合併し、その時の実資産価値に合わせて合併先の投資口数が割り当てられたりします。

このリスクを嫌う人がいますが、ここは考え方だと思います。

 

昨今の日本の低金利状況だけ考えれば、米国の状況と比較し日本のREITは遥かに好条件にあると言えます。

 

LTVが低い銘柄は利回りも低くなりやすい

LTVが低い銘柄は、金利上昇リスクによる耐性もあり、更なる借入金による成長余力も持つREITと言えます。

たまに保有している銘柄が新規物件を増資なしに購入したりすると、分配金利回りが大きく増加し、投資口価格も上昇というところに遭遇したりします。

一方で、NOI利回りに対して分配金利回りが低めになります。下記が「LTVが低いトップ5銘柄」です。

投資法人名 NOI利回り 分配金利回り 有利子負債比率
三井不動産ロジスティクスパーク投資法人 5.39% 3.44% 22.5%
三菱地所物流リート投資法人 3.89% 27.5%
フロンティア不動産投資法人 5.46% 4.52% 31.3%
星野リゾート・リート投資法人 6.83% 4.43% 35%
日本プロロジスリート投資法人 5.45% 3.81% 36.9%

 

NOI利回り->分配金までいきつくまでに一番見えづらい経費率

実際は借入してレバレッジ1.2倍~2.5倍にしても、J-REITではNOI利回り前後の分配金利回りしか出ません。

NOIは企業決算で言えば、キャッシュフローであり営業収益です。

不動産の運用では、物件の保守・運営管理コストや投資法人の人件費等の様々なコストがかかります。これを差し引く必要があり、更に不動産売却損益等の営業外収益を合わせたものが純利益となります。

REITの場合、利益に対する税金(株式会社での法人税)は非課税。かつ株で言うところの配当性向はほぼ100%ですので、純利益を投資口数で割ったものが分配金になります。

 

REITの場合には、この「収益に対する経費率」みたいなものが、結構分配金に効くのですが、これは決算を見ないとわかりません。

下記、4つほど例を上げます。カッコはJCRの格付けです。

日本ビルファンド(AA+) イオンリート(AA-) 投資法人みらい(A+) インヴィンシブル投資法人(A)
営業収益 421憶2549万 157億8029万 39億5803万 126憶4727万
営業利益 165憶5211万 62億7698万 19億789万 82億23565万
当期純利益 146憶8200万 53億8300万 17億600万 73憶700万
収益に対しての利益率 34.8% 34.1% 44.4% 57.80%
NOI利回り 4.25% 6.64% 4.69% 6.29%
  • 日本ビルファンドは優良大手の代表格ですが、やはり物件管理・運営のコストが高めになります。
  • イオンリートは、前述の通りにNOI利回りが高い物件ですが、商業施設の高い運用コストで収益に対して投資家還元は34%程と低いです。
  • 投資法人みらいは低めのNOIにも関わらず、そこそこのLTVと低い経費率でよい収益率で運営しています。
  • インヴィンシブル投資法人は、ホテル系ならではの高いNOIから来る相対的な低い経費率で高い利回りを実現しています。

上記は不動産売却損益等は考慮していません。別記事で全銘柄のリストを記載します。

 

ここは、低過ぎれば「安定した物件の保守、運営が長期的にできるか?」とも疑問が湧きますが、一方で固定費が高い銘柄は分配金を定量的に押し下げます。

ある意味、経営効率の様な指標にも考えられます。ですが、この部分はNOI利回り、NAV倍率、LTV等のREITで銘柄選定で利用する指標にはどこにも現れてきません。

不動産収入に勿論、修繕費用にも想定される「減価償却費を処理した後」の数字に、ある銘柄は35%しか分配できないのに、別の銘柄は55%分配している。

この差は結構、罠ですよね。下記の様なシナリオ例になります。

 

1億円でNOI利回り5%の物件を、5000万出資して、5000万円借金して購入。

不動産賃貸収入は500万円/年です。

5000万は金利0.5%で借りたので、25万円金利分を払って、収益は475万円/年です。

ですが、物件の管理運営会社の経費は、収益の約65%=310万円かかったので、最終収益は165万円になりました。

これだとNOI利回り5%ですが、出資金額5000万に対して分配金は3.3%になります!

 

ってな感じです。実不動産と違っていろいろ特色が出ますね。(´・ω・`)、

 

上場してるので割高・割安になったりする

今まではREITの不動産価値から見る利回りの話ですが、実際は上場して売買されるので、この利回りより割高になったり、割安になったりします。

上場すると下記の様になります。

この1億円不動産を、借入金の5000万円を除き、500口に分けて1口10万円で公募で資金を募って分割しました。

収益は165万で500口で割って、分配金は1年目1口10万円辺り3300円でした。

すると、人気が出て、1口11万円で取引される様になって、利回りは3%に落ちました。

 

となります。上記だとNAV倍率は1.1倍と表現されます。

 

僕の場合の銘柄選定

僕はNAV倍率が高止まりしている日銀や投信による投資の歪みを避けて、現在はA格付け銘柄をを主体とした高分配金派です。

J-REITは時価総額の70%をAA銘柄で占めますので、リスク許容度は平均的なREIT購入者からすれば、高めです。

 

バブルチャートは便利

バブルチャートで、NAV倍率、利回り、時価総額を見て、興味が持てる銘柄を探します。

J-REITは60銘柄位ですので、株式に比べれば全体をとらえることが非常に簡単です。

J-REITのバブルチャート 格付け毎の配当グラフ(リアルタイム更新版)

 

NOIは利回りのカラクリ確認用に使う

「NOIを気にし過ぎてもしょうがない」というのが結論です。

ですが、「分配金が高目」のその理由を決算を見て手繰っていくと実際は不動産の売却益が理由のことが多いです。

記載した様に、NOI利回り、LTV、運営効率、分配金利回りのカラクリを理解して物件の特徴、高分配の場合は「リスク」を理解します。

 

REITにはROEは一般的ではない

パフォーマンスの指標としては「REITでもROE(投資金額に対してリターン率)が指標として重要!」という結論に行きつくのですが、

J-REITのマイナー感を考えると、そんな議論が普及することはないかな。と思っています。

高いROEは、「高いNOI、低い経費率、高いレバレッジ」と、それ以外の売却益等で実現されることになります。

株式と異なり、ROEが高い物件の悪い言い方をすれば、

「地方物件や業態リスクが高い物件ばっかりで、保守がきちんとされていないもしれないし、レバレッジリスクの高い銘柄」

とも言えるので株式の様に注目されることはありません。

J-REITは機関投資家も含め「資産家が相対的に利回りが低くても大型で安定な銘柄を選ぶ人がほとんど」であることが、銘柄分析をしていると浮き出て見えます。高分配金銘柄を選ぶ投資は主流でないので、様々な銘柄リスクがあることを理解した上で投資する必要があります。

 

長文でしたが、最後まで読んで頂いてありがとうございました!

 

 

下記記事は、上記で記載したJ-REITの不動産売却益損益を除いた利益率の全銘柄リストです。

銘柄により利益率は30%~55%まで様々でした。皆さんが投資した銘柄はどうでしょうか?

REITの当期利益率について

 

コメントを残す