トヨタAA型種類株式の配当について記事に書いていますが、2019年度、平成31年度改め令和1年度(平成31年4月~令和2年3月)に配当利回りが上限の2.5%を迎えます。
上限金利となる年度を迎え、来年以降にトヨタAA型種類株式に対してどういう構えで行くのがよいか考察します。
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2020年に売却不可期間の5年が終了する
2019年度に配当利回りは上限の2.5%となり、2020年度の秋より株式転換、及び金銭対価の取得要求(売却)が可能になります。
2020年度以降、下記が株式所有者からの選択肢になります
選択肢1)何もせず2.5%の配当を貰い続ける。
AA型種類株式は5年で満期・償還という扱いにならず、そのまま株式を保持し年2.5%の配当を継続して受領することが可能です。保有したい株主は最低6年の保持が保証されています。
円建てで額面保証で2.5%の利回りがある商品はほとんどなく、ほとんどの人がこれを選択するのでないでしょうか?
ちなみにS&Pの格付けですと、トヨタは上位から4番目のAA-、日本国債は5番目のA+です。株式ではありますが利回りを考えればオトクですよね。
選択肢2)普通株式への転換要求
年に二回、普通株式への転換要求を掛けることができます。
10598円で購入していますから、2019年5月時点で株価は7000円前後です。普通株式に変換しては損をすることになります。現時点で、この選択肢はないです。
選択肢3)金銭対価の取得要求(売却)
2020年9月より年に4回換金が可能です。現金化が必要であればトヨタ側へ買取を要求することができます。
購入した野村証券経由でお願いすることになりますが、手数料体系は不明です(無料であることを期待してます。)
換金が必要な方は2020年9月末までに手続きを完了する必要があり、事前に野村証券へ問い合わせをするのが良いと思います。
2021年以降に金銭対価の取得条項について
買取要求をしなければ、2020年度となる6年目も上限の2.5%の配当を貰うことができます。
そして、2021年度4月から年に一度トヨタ側から本株式の金銭対価の取得(強制買い取り)があり得ます。これが行使されるか気になります。
これを予測するのは難しいので、長くなりますが、トヨタがAA型種類株式を発行した背景に振れてから考えてみます。
トヨタは何故AA型種類株式を発行したのか?
下記がAA型種類株式の発行の際のスライドからの引用です。発行目的は「中長期株主層の形成」とあります。
スライドに記載はないですが、「トヨタ経営陣が機関投資家からの影響を嫌ったため」と言われています。
それを考えると、上記は、トヨタは「機関投資家は短期でしかモノを見ない」とでも言いたそうなスライドですね。そんなことないと思いますが。
機関投資家の影響って?
個人投資家からすれば「トヨタの世界的大企業が、機関投資家の影響をそんなに受けるの?」と考えがちです。
ですが、このAA型種類株式の発行を議決する株主総会で、一定の理解を得られる一方で、「モノを言わない株主を増やすことになる」と一部の機関投資家から反対があり、株式総会で反対が24%にもなりました。
定款の変更には、2/3以上の賛成が必要ですから、後10%の株主の反対があれば、この議案すら否決されていた訳です。
時価総額で日本で1位、世界で45位(2019年4月現在)の大企業であっても、議案が否決される仕組みが出来上がってきた頃に発行された株式になります。
背景には議決権行使方法の変化があった。
背景には機関投資家の議決権行使の判断方法の変化があります。
スチュワードシップ・コードと議決権行使助言会社の台頭
2008年のリーマンショックの後、「機関投資家の投資先企業の経営監視の取り組みが不十分であった」という批判から、英国を中心にし「スチュワードシップ・コード(機関投資家の諸原則)」が2010年に規定されました。日本では金融庁がそれを受けて7つの原則を含む「日本版スチュワードシップ・コード」を2014年2月に公表されます。
多くの機関投資家・運用会社はこの「日本版スチュワードシップ・コードを受け入れる」ということを表明していきます。
これは、所有する株式を所有する投資先の起業が、利益相反がないことや、投資先の企業をモニタリングする義務を追うことを意味します。
ですが、所有・運用する全ての株式に対してその様な監視を行うことは現実的でなく、インスティテューショナル・シェアホルダーズ・サービシーズ社(ISS)、グラス・スイスといった「議決権行使助言会社」へ助言を求め議決権を行使します。
コーポレート・ガバナンスの原則定義
一方で企業側は、「コーポレート・ガバナンス・コード(起業統治の諸原則)」と言う形で73の原則が既定され、金融庁と日本取引所で2015年3月に発行され、6月から運用がされています。罰則はない訳ですが、その達成されていない場合は説明が求められます。
機関投資家側は議決権行使助言会社の助言にに従い、このコーポレート・ガバナンス・コードに添わない様な議案は否決していく様な流れとなりました。
コーポレート・ガバナンス・コードの原則に背けば「議決権行使助言会社」は否決を助言し、それを受けて機関投資家も否決します。
トヨタの同族経営批判リスク
トヨタは同族経営であると批判されきた歴史がありますので、トヨタから見れば「スチュワードシップ・コード」と「コーポレート・ガバナンスコード」の名のもとに、「取締役選定が不適切」との論調が盛り上がれば、専任取締役が承認されない等のリスクが上がったのです。
例えば、コーポレート・ガバナンス・コードでは独立した社外取締役を2名以上設けることを原則としています。
トヨタはずっと社外取締役を入れていませんでしたが、2013年に3名の社外取締役を受け入れています。英国でコードが規定された後になります。
また、議決権行使助言会社の「グラス・スイス」は女性取締役を設けることを助言方針とし、2019年から女性役員のいない企業の会長もしくは社長の選任議案に反対票を投じることを2017年11月に発表しています。
トヨタは2018年3月に初の女性取締役を選定しています。
トヨタから見れば女性取締役を入れていないことで、会長・社長まで否決されてしまえば、それこそ経営リスクです。
トヨタは2009年~2010年の北米での大規模リコール問題で、いちゃもん付けられて集団訴訟が多発し、民事賠償金を払った過去もあります。
これが、今であれば「事故に対して社会的責任を果たしていない。取締役解任!」等というシナリオが走るリスクも上がったのです。
関連企業も含め同族経営と批判されることの多いトヨタからすれば、公言はできないものの、機関投資家の議決権行使の在り方の変化が経営リスクとして捕らえられたと想像します。
AA型種類株式の設計(改めて)
そんな時代に生まれたAA型種類株式です。トヨタ経営陣から見て「機関投資家に勝手にやられてはトヨタはダメになってしまうかもしれない」と考え、
企業防衛的な意図を持ち「個人株主(日本人!)に広く株式を持ってもらう施策」として考えられています。
ここまでやるとは、流石世界のトヨタですが、若干過剰反応な気がします。日本企業が故に海外市場で矢面に立ち、辛酸を嘗めてきたトヨタならではの対策ですね。
改めて、その観点でAA型種類株式の設計を見てみます。
議決権がある
債券・優先株と異なり議決権があるのはこの背景です。
株主総会のお知らせが来ると、今も野村証券から「議決権行使の提出をお願いします」という内容の電話が毎度かかってきます。これはトヨタが主幹事に野村証券を選定した際に、約束されたオペレーションなのでしょう。
価格が普通株の30%増であった
AA型種類株式の額面は10598円/株ですが、普通株8152円の30%増でした。
5年後は普通株に転換可能ですので、普通株所有者が不利になりすぎない様な割高な価格設定になっていました。
一方で、TOBを防止する役目があります。例えば市場の個人株主から買い付けをする際に、AA型種類株主は10598円以上でなければ応じるメリットがありません。
例えば大きな問題があり、市場で株式が1000円になって、プレミアムを付けて2000円でTOBしたとしても、AA型種類株式所有者の株式を買い取ることができないのです。
利払い延期条項がある
例えば、赤字となり無配当とした場合、AA型種類株主が即時で換金してしまうことを避けるためです。
普通株が無配当となる状況で、AA型種類株式の配当を出し続けると、それは企業経営としてAA型種類株式の存在自体が問題になりますので「延期条項(遅れても後でお支払いする)」としています。
幅広く個人投資家・日本人に配布
AA型種類株式は60%が個人所有であり、株主数で言えば94%が個人投資家です。海外には発行されていません。
TOBがあれば株式の集まりを悪くするがために、僕の様な弱小投資家にも少し割り当てがあった訳ですが、トヨタも野村証券もよくこんな手間をかけたな。と感心します。
見解~金銭対価の取得条項(強制買取)があるのか?
話を戻すと、トヨタは苦労して決議した上でAA型種類株式を発行しています。この発行を失敗とする確固たる評価材料は無く、決定した事項に対して機関投資家に忖度する必要性も薄く「金銭対価による取得(強制買取)」を行使する理由はないと予想しています。
業績に大きな問題があり、トヨタがキャッシュが不足したり、普通株式との不平等性が大きい場合に問題になりますが、普通株式も配当は230円で利回り3%前後あるので問題にない範囲です。
第二回のAA型種類株式の発行ありえるのか?
ここが気になる所ですね。
定款は改訂済で、総会決議は不要で第5回まで発行することができますので、経営側の意志で発行を決めることができます。
(2015年の提示株主総会の議案から)
第二回を発行する際には、既存普通株主にも不利がない様に、その分の自社株買いをする訳ですが、
それこそ再度、機関投資家が、「自社株買いまでしてモノ言わない株主が増えるのが良くない」と批判されることは予想されます。
5年を経てトヨタ側が発行目的としていた「中長期投資家層」をトヨタ自身が評価をどうするのか?を問われることになります。
経営は何も行動もしないシナリオ
シナリオ1つ目は、機関投資家が良く思わないのは明確なので「波風絶たせず、今まで通り何も言及しない」というものです。
実際は、AA型株式は全体株式に占める割合が1.4%程度であり、経営施策の1つの試みとしてスタートを切っただけです。
定款上も、普通株発行可能上限100憶株(発行済は現在約3263憶株)に対して、AA型種類株は1億5000株としているので、トヨタは初回発行時にはAA型株式の割合としては全株式の1.5%前後を1つの基準とも見ていました。
AA型種類株式と普通株の入れ替えを推し進めれば4.6%をAA型種類株式占めることが可能ですが、第二回を進めることは、再び「機関投資家に喧嘩を売る」ぐらいの気合が必要で、今もトヨタ経営陣に強い動機付けがあるか?と言われると、コーポレート・ガバナンス・コードが発行された2015年当時よりは、危機感は下がっていて必要性を感じていないかもしれません。
加えて、当時、野村證券のみが幹事があったこと、トヨタ側の発行コストも高い等、様々な課題もあり、経営側のこの施策を推進するモチベーションが下がっていれば、何も起きません。
第二回目に向けて行動するシナリオ
シナリオの2つ目は、2020年に株主による金銭取得要求(売却)が可能ですが、現状では5年で売却する人は少ないでしょうから、それを理由に「株主はトヨタの経営を理解し中期的に保有して頂いている」と説明し、第二回を発行を推し進めるというものです。
ですが、低迷気味の「普通株」」所有者とのリスク・不公平感が縮まることが条件と考えています。
AA型種類株式を発行した時よりもトヨタの株価は1000円以上株価が下落しています。同時期に普通株を購入した株主は含み損を抱えている状態です。
その様な状況で、AA型種類株式を積極的に発行すれば普通株への投資家からの反発は避けられません。
2019年の純利益は減収見込みですが、2020年に業績が大きく回復し、2021年に株価が9000円以上、仮EPS 900円(2018年度は846円 / 2019年は655.7円)で、配当性向30%で普通株配当270円程度になれば、普通株の株主も納得させる形で、第二回AA型種類株式を準備してくる可能性も出てくると予想しています。
そう考えると2019年度に純利益ベースで2割以上の減収見込みは、第二回のAA型種類株式の発行の面では大きくマイナスです。
見解~現状では可能性は低い
第2回目の発行は、「最短で2021年だが、現状の経営・業績見込みでは可能性は低い」との予想です。
経営方針や業績に影響されるので、その可能性も流動的です。
個人投資家ができることはありませんが、トヨタから見て、AA型種類株式の有効性を語る際に「XX%の株主が議決権行使をし意志を表示している。有効な方法だ!」と高い数字を言いたいところです。第一回AA型株式を所有し、第二回が欲しい個人投資家の方は、きちんと議決権行使をしてあげるのが良いのではないでしょうか?
最後までお読み頂きありがとうございました!
下記、強制買取リスクを憂う記事を書きました。
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